ヨガの大古典ヨガ・スートラにヨガの定義が示されています。
「意識の中に生じる動揺を静止させること」
逆に言うと意識は常に動揺しているということです。
人間は変化に注意が向くようにできています。相手の身体の動きはもちろんですが、表面的には見えない意識の変化でも感じます。何かの変化に意識が向かったとき心身は警戒状態となり全身は覚醒することになります。
武術の原理は、相手に「入り込み」を実行し、相手の脳の指令系統の動きを一時中断することで、軽い接触に対しても抵抗できない状態にすることです。また、相手を崩し終わるまで相手の大脳の機能を低下させたままの状態を保つ必要があるのです。
「入り込み」がいったん出来たとしても、何らかの刺激を与えれば相手の指令系統は覚醒して正常に戻ります。そうなるともはや崩すことはできません。せっかく「入り込み」できても、その効果は消えてしまいます。それが普通に起こってしまうので武術は難しいのです。
指揮系統を正常に戻す刺激は身体的な衝突だけでなく、こちらの意識の変化も含みます。「入り込み」の意識を途中で変えてはいけません。よくあるのは、途中で相手を倒そうと思ってしまうことです。
腕受けの分解組手を例にとって見ましょう。
相手の追い突きに対して左腕受けをします。左腕受けの後に相手の突き手あるいは肩口に右手で触れて崩します。
成功するためには次が正しくできることです。腕受けで「入り込み」が出来ていることと、その後の右脚を踏み込みながら軽く右手で相手の身体を崩すときに「入り込み」の意識が持続することです。
もちろん、左の腕受けが突き手に触れないようにします。衝突すると相手は覚醒します。
「入り込み」は出来ているのに、こちらの右手に押されて相手の身体が後ろに歩くように動いてしまって崩れないことや身体は多少のけぞるのに崩れない場合があります。
これは腕受けの時と、肩口に触れているときに意識が変化したために相手に覚醒が起こったためです。
意識は「入り込み」から技が終了するまで変化せず固定し続けなければなりません。これを「一調子で」、「一呼吸で」と言います。最後まで、心を変えずにすることを「残心」と言います。
意識は今まで話をしたように多くの在りようがあります。
〇心の在り方、受け入れる、調和する
〇正中線
〇空間
などなど、どのような意識でも効果に多少の違いはありますが、相手を崩すためにはどの意識でも良いのです。
意識を揺らがせずに最後まで固定していることが大事です。覚悟を決めて固定するのです。
自分の意識の芯を最後まで1mmも動かさないことです。
座禅で検証した知人に座禅の姿勢を取ってもらった時、突然そこには3~4mもある大きな岩の塊があるように感じて驚きました。覚悟の大きさだと思いました。