他流派で14年の経歴を持つ男性が昨年末に入門した。身体を鍛えることを大事にする流派で、型でも力を籠める習慣はなかなか抜けずに苦労していた。
長い経歴で習得したきちんとした突きで攻撃しても、触れられて崩されてしまう度に首をかしげていた。
もう一人彼の後に入門した男性がいる。ウインドサーフィンをしていたので、不安定な体の状態から瞬時に立ち直ることが体に染みついている。入り込みをするといったんは崩れそうになるが、そこでこらえられてしまう。厄介な男である。突きも慣れていないので身体が崩れないように後ろに体重を残した突きになる。
この二人が皆と一緒に分解組手の稽古をしていた。ウインドサーフィンの男が追い突きいをし、他流派経験者が腕受けをして崩す練習をする。
初心者同士でうまくいかないのは当然である。手順を覚えてもらえればよい。
建設会社で採用人事を担当している他流派経験者は温厚な人柄である。ふと思いついて言いました。
「向き合った時から、相手のすべてを『受け入れて』ください。身体でも相手を下半身全体で抱きかかえるように。心でも相手を全面的に受け入れてください。」
彼の全身が緩むのが見えた。突き手は柔らかく崩れた。
初めての成功であった。本人にとって感激の一瞬である。相手も今まで倒されても何らかの衝突があったのが、全く衝突なく崩されてうれしさが残った。
私にとってもこの瞬間はかけがえのない喜びである。
道場に拍手が響いた。